浄土寺山の奥に蛇が池という池があります。写真の池が今の蛇が池です。
『蛇が池』には、その昔、大きな龍が住んでいました。龍は日照り続きに悩む人々の願いにこたえて雨を降らせたことがあり、人々は、龍を『龍王さま』と呼び、恐れと尊敬で日ごろは池に近づかないようにしていました。
ある年、長い日照りが続き、たまらず人々は龍にお願いしました。すると、池の水面に龍が姿を現わし、天に向かって呪文をとなえると、ピカッといな光が走り、雷が鳴り響き、たちまち大粒の雨が降りだしました。人々は「龍王さま、龍王さま」とおどり上がって喜びました。
それから長い平和な年月がたち、浄土寺山の深い森も、次々と耕され、開けてゆきました。ある晩、龍は、浄土寺山のふもとの曼荼羅堂(まんだらどう)という寺の和尚さんを訪ね、「こう世の中が騒がしゅうなっては、わしも住みにくうなった。明日天に帰ることにした」と和尚さんに分かれを告げました。そして翌朝、龍は長年住みなれた蛇が池をたち、山を下りました。曼荼羅堂を過ぎ、尾道水道に飛び込んだ龍は、尾道と四国の真ん中にある百貫島(ひゃっかんじま)に上がると、雲を呼び、たなびく雲に包まれ、天に昇ってゆきました。
龍がいなくなり、尾道の人たちは『龍王社』という祠(ほこら)を建て、龍王さまをおまつりしました。それからは、日照りが続くと遠くの村からも、この龍王社に鉦(かね)や太鼓をたたいて、にぎやかな雨乞いの行列が訪れるようになりました。終戦後もしばらく続いたということです。やがて曼荼羅堂は、龍が通って海に入ったということから『海龍寺』と名を改めました。
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